魔術師は愛しい家を手に入れる 鈴木レモン

魔術師は愛しい家を手に入れる (メリッサ)

王宮で浮名を流している魔術師のレンザ。自分には子供ができないと高をくくっていたが、軽い気持ちで手を出した下働きの娘ミアを妊娠させてしまう。はじめは信じられなかったものの彼女のお腹から自分と通ずる魔力を感じ取った彼は、複雑な自分の生い立ちから責任を取る決意を固める。しかしミアは、貧乏な９人兄弟のため、一気に大家族の面倒を見るはめに――!?　

以下、ネタバレ有りですのでご了承ください

「文官は優しい夢を手に入れる」と同じ世界観の話です。

関係はないのですが、一部登場人物が被ってチラッと登場します。

実はちょっと前に設定が似た話を読みました。

作者さんは別ですが、お話は被るものが多いのも良くあることです。

このお話は、女遊びが激しい男が適当に遊んだ女に子供が出来た話。

無責任に遊ぶ男の話が私の中で続いてしまいました。

ただ良くあるのは男が知らぬ間に女が子供を産んで、後で男が自分に似た息子とかに出会う話。

これってテンプレ並みに良くある話ですよね。

この話はちょっと違う。

鈴木レモンさんの話は2度目なのですが、この作者さんは本当に他とはひと味違う話を作る作者さんですね。

すでに私のお気に入りです。

この話では、男は女をあちこち渡り歩いている。

孤独な育ちをした男で、強力な魔法使い。

地位も力もある。

容姿も抜群に良い。

今回気まぐれで手を出した女は悪くもないけど特別美人でもない。

貴族でもない、庶民中の庶民。

終わった後、小銭を要求してきたので、遊んだ女に恵んでやった気持ちでいる。

この辺りの出だしが既に違います。

ヒロインがある意味お金も目当てで近づくんですよ。

読んでるこちらも

え？この彼女がヒロインなの？と思いましたもん。

彼女は大家族で九人兄弟の長女。

父親が死んで、生活に困っている。

好奇心やら、やけになった経緯やら、余り深く考えずに魔法使いのレンザに抱かれた。

身分違いだとわかってるけど、チャンスがあったから抱いて貰った。

本気で相手にしてもらえるなんて思ってない。

だから悔しいし、大した額じゃないけど腹いせにお金も要求した。

しかし妊娠してしまったのだ。

よくあるパターンなら泣いて身を引くヒロインなのだけど、彼女は違う。

生活がギリギリなのに子供が出来たら働けなくなってしまう。

せっかく王宮勤めが出来たのに、お金が稼げないと弟たちが食べていけない。

オレは子供が出来ないと彼が言ってたからそれを信用したのに、

ウチの生活どうしてくれるのよ！

彼女はブチ切れてしまった。

これは珍しいパターンだ(笑)

そして私は珍しい設定が大好物。

彼女の具合の悪さから上司が気づいた。

彼女の上司や周りの人はみんないい人だった。

彼女の不幸を自分のことのように怒ってくれた。

女たちはレンザに詰め寄る。

レンザの上司にも詰め寄る。

上司のそのまた上司は王太子とか、居合わせた文官は「文官……」に出てきたその文官達だ。

ここで話はクロスする。

レンザは本気で子供が出来ないと思ってたので、女は気に食わなかったが子供は

「ぜひ生んでくれ……」

「生活の面倒はみるぞ！」

しかし、レンザは遊び人だったので高給取りで生活には困ってないけど、大金持ちでもなかった。

彼はヒロイン ミアの大家族11人の面倒をまとめてみることに←彼女が働けないからね

彼女の家の借金を払うために全財産も使う羽目に。

愛し合っても居なかった女の家族全員の面倒を仕方なく見ていくうちにレンザは自分が孤独で寂しかったのだと気がつく。

恋人とか、夫婦とか、そんなことになる前にまずは大家族が出来てしまったイケメンの話。

見た目だけの男と強がるだけの女の不器用な恋の行方。

設定がとても斬新で、しかも心温まる。

前回も心が死んでるような男の話だったけど、心の触れ合いが暖かく涙が出ます。

読み終わるまでに何度も泣いた。

ミアの家族もそれぞれ個性的。

レンザがミアよりも先に、家族に心惹かれてしまうのも新しい。

それゆえに彼が実はとても善人だということも。

ハートフルです。

ありきたりの恋愛小説に飽きてしまった人におすすめです。

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